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第三章 憧れか、一目惚れか 第五話

Penulis: 夏目若葉
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-03 18:26:46

「朝日奈さんさぁ、晩御飯まだだよね? たしか、仕事の帰りだって言ってたもんね」

「……はい」

「じゃあ、今からなにか買ってくるよ」

「え?!」

 ……なんですか、その唐突な言動は。

 今、仕事の話をしていましたよね?

 この人の頭の中のスイッチングが、本当にわからない。

「けっこうです。お話が済めば失礼しますので」

「この近くにさ、遅くまでやってるテイクアウトのお店があるんだ」

 すぐ買ってくるから、と笑みを向ける宮田さんに、人の話を聞いていますか?と突っ込みたくなる。

「朝日奈さんはきっとお腹がすいてるんだよ。人って、お腹がすくと無意識に不機嫌になるからね」

 一方的にそう言葉が放たれ、パタンと部屋のドアが閉まる。

 急にシンと静まりかえる部屋。

 突然ひとりでこの部屋に残されてしまった。

 だいたい、去り際に言ったさっきのセリフはなんなのよ。

 このイライラの原因は、空腹からきているとでも?

 仕事終わりに呼びつけられ、おかしな発案ばかり聞かされればイライラしてくるに決まってる。

 それを私が空腹だからだと思いこむあたり、ポジティブというかズレてるというか。

 誰もいないのをいいことに、私はソファーの背もたれにダランと頭を乗せて、ぼんやりと天井を見上げた。

 そのまま数分が経ち、宮田さんは仕事の相手なのだから、イライラさせられたとしても顔や態度に出しちゃダメだと少しばかり反省モードになる。

 本当はあの人が、デザイナー・最上梨子なのだから。

 やはり今日はエネルギーが足りていないのがいけない。

 エネルギー不足だと、あの気まぐれイタズラわがままっ子には太刀打ちできない気がする。

 なにを買いに行ってくれたのかわからないけれど、宮田さんが戻ってきたら、適当に理由をつけて今日はもう帰ろう。

 こういうときは、仕事の話も仕切りなおすのが一番だ。

 宮田さんが戻るのを待っていたはずなのに……

 私の身体はまるで充電が切れたかのようにソファーに沈んで、挙句まどろんでしまっていた。

 ふと気づいた次の瞬間には、身体の上にブランケットが掛けられていて。

 それに驚いて、咄嗟に飛び起きるように上半身を起こす。

「す、すみません! 私、寝ちゃってました」

 部屋の奥にある仕事用のデスクに座る宮田さんを視界に捉え、あわてて頭を下げる。

 
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    「好きなの、着てみていいよ」 手垢をつけてしまったらどうしようと、触ることすら臆するのに。  私が着るなんて、おこがましすぎる。「どれも……綺麗ですね」 最上梨子が作るものは、とにかく綺麗で美しい。  デザインを司っている全体的なラインも、バランスが絶妙だし…  特に、流れるような曲線と、それを活かす色使いと装飾。 ――― まさに芸術作品。「あのあたりに置いてるのは、全部ドレスだから。って……ただ見てないで、手に取ってみればいいのに」 そっと手を引かれて、ドレスがたくさん掛けられているコーナーへ連れて行かれる。  宮田さんが適当にドレスを選んで、勝手に私の顔の前に当ててみたりして。「ちょ、ちょっと待ってください。まさか、私がパーティに着ていくドレスをこの中から選ぼうとしてますか?」 「うん、もちろん。僕のところにはドレスがたくさんあるって言ったでしょ。なにか不服かな?」 「いや、不服っていうか……」 ここにある服はすべて、すごく貴重なものばかりなんじゃないのかな。  だから私がすんなりと袖を通していいものじゃない。「私にはもったいないですよ。一点ものとかあるんじゃないんですか?」 この世に一着しかないような、貴重なドレスもきっとあるのだと思う。  だってこんなにたくさんの最上梨子作品が並んでいるのだから。  そうだとしたら、私がそんな芸術作品を汚すような真似はできない。「一点もの? たしかにあるな。試作まで作ったはいいけど、ボツになったやつとかね。なんとなく……そういうのも処分できなくて、全部ここに置いてるんだ」 ほら。やっぱりそう。  そんなものに、私ごときが袖を通すなんて……。「でもさ、全然もったいなくないよ。朝日奈さんがパーティで着てくれるなら、逆にドレスも嬉しいんじゃないかな」 だって、やっと陽の目が当たるんだよ?って、宮田さんが綺麗な顔してうれしそうに笑う。  そういうものなのかな。  作られたはいいけど、お披露目されずにずっとこの部屋にしまわれているドレスなんかは、たしかにかわいそうだ。「いや、でも……どれも小さくて、私には入らないんじゃないかと」 もうひとつ別の意味で問題がある。  私の身長は女子の平均くらいだ。だけど体重は……間違ってもモデルみたいに細くない。

  • 解けない恋の魔法   第四章 ドレスの魔法 第四話

     次の日。  私は呼び出されるままに、午後から最上梨子デザイン事務所を訪れた。  パーティの件も気になるけれど、ブライダルドレスのデザインの進捗状況のほうも気になる。 ……うちの仕事、ちゃんとやってくれているのだろうか。「お疲れ様です」 「朝日奈さん、こっちこっち!」 私がペコリと頭を下げるも、挨拶すら割愛するわがままっ子様。  なぜか今日もテンションが高そうな笑顔で手招きしている。 ダメだ。早くも向こうのペースに飲み込まれそう。「こっちだってば! 早く!」 「み、宮田さん! ちょっと待ってください!」 なかなか歩を進めようとしない私に業を煮やし、宮田さんが私の左手を掴んで強引に引っ張っていく。  たまたま事務所内にほかの人はいなかったけれど、 強引に引きずられて歩く私は他人からみたらどんなに滑稽だろうか。  どうしてこんなに焦って歩くのかわからない。  だいたい、身長差があるから歩幅だって違うのだ。  そこのところを、わかっていただきたい。  というか、ちょっと待ってと言っているのに無視ですか?! ずるずる、どたどた、という擬音がピッタリの引きずられようで歩くと、すぐにいつものアトリエ部屋が見えてきた。  なんだ、いつもの部屋じゃない。  そう思っていたのに、宮田さんはアトリエ部屋ではなく右隣の部屋の前で立ち止まって、ポケットから鍵を取り出してガチャリと錠を開ける。  そこはもちろん、私は入ったことがない部屋だ。  しかもしっかりと施錠してあったということは、普段はほかのスタッフも立ち入りを禁止されているのだろう。 「どうぞ」 扉を開け、電気をつけて中へ入っていく宮田さんに続いて、私もその部屋へ足を踏み入れる。 「うわぁ、すごい!」 部屋に一歩入った瞬間、驚きと感動で感嘆の声しかあげられなかった。  だってそこにはドレスやトップスやスカートや……目を見張るような衣装の数々がたくさん揃っていて。 ――― 最上梨子の世界、そのものが詰まっていた。 普段の喋り方やわがままぶりを見ていると、この人は本当に最上梨子なのかな?と、疑ってしまいそうになる時があったけれど。  紛れもなく、本物だった。  これはすべて、彼が一から生み出したもの。  最上梨子らしいデザインに、繊細な色使い。  どれもじっと見入ってしま

  • 解けない恋の魔法   第四章 ドレスの魔法 第三話

    『朝日奈さんにとってもさ、ほかのデザイナーと面識ができるんだから、損はないんじゃない?』 それは……そうだ。  それに、行けばいろいろとデザインのことに関して勉強になることもあるかもしれない。  私はデザイナーではないけれど、知識として蓄積できれば今後きっと仕事の役に立つ。「そのデザイナーさんって、どなたですか?」 『香西健太郎(こうざい けんたろう)だよ。知ってる?』 「知ってます!」 名前を聞けば、テレビにも出たことがある結構な有名人だ。  彼がデザインしたティーカップを私だって買った覚えがある。  ミーハーかもしれないけれど、ちょっと実物を拝見したい気持ちが湧いた。 『お、食いついたね。じゃ、決定。朝日奈さん、間違っても今度はスーツなんかで来ないでよ?』  「えぇ?! スーツじゃ、ダメなんですか?」 もしも行くとなったら…  スーツで行く気満々だったのに、先にそう言われてしまった。  なにも言わなかったら私がスーツで行くと見越して、宮田さんは釘を刺したんだろう。  スーツと言っても、もちろんビジネス用じゃなくて、ワンピーススーツで行こうと考えていた。  私が持っているのは色はグレーだけれど、ビジネス用とは比にならないくらい女性らしく見えるはずなのに。やっぱりダメなのか。『ダメダメ。だって、香西健太郎のパーティだよ? 場所だって、でっかいホテルでやるんだし』 「で、でも私、スーツ以外にパーティに着ていくような、ドレスみたいな服は持っていないです」 『心配いらないよ』 だったら行くのは無理ですね、と言おうとしたところで、宮田さんが先にそう言った。  心配いらないって、どういう意味なんだろう?『ドレスなら、僕のところにたくさんあるから』 「え?」 『僕を誰だと思ってるの?』 誰って……気まぐれイタズラわがままっ子でしょ。  いや、それもあるけど本来は……『一応、僕もデザイナーなんだけどな』 そうだ。この人は普段ふざけているけれど、デザイナー・最上梨子だった!『明日、事務所においでよ。待ってるからね』

  • 解けない恋の魔法   第四章 ドレスの魔法 第二話

    「日曜日? なぜですか?」 『なぜって……デートだから』 「意味がわからないので、お断りします」 『あ、ちょっと待って!』 私がそのまま電話を切るとでも思ったのか、電話口で慌てるような声が聞こえてきた。  ……ちょっと、面白い。  相手に見えていないのをいいことに、私はスマホを耳に当てたまま、思わず笑みを浮かべる。  いつも驚かされたりあわてさせられたりしているのは私のほうなのだから、ちょっとはあの人もあわてたりすればいい。「なんでしょう?」 『デートっていうのは言い過ぎた』 でもやっぱり、こうやって意味不明だ。『実は、朝日奈さんにお願いがあってね』 「お願い?」 この人が私にお願いなんてすることがあるの?と、少し違和感を覚える。  だって、いつも有無を言わせず決定するような、わがままな性格だと思っていたから。  人の都合を気にかけるような、そんな普通の人間らしい部分も持ち合わせていたのか…。  どうやら少しは普通の人間であったようだけれど。  それが意外すぎて、今私が喋っているのは本当に本人かと疑いたくなってしまう。『僕の知り合いのデザイナーがパーティを開くんだ。事務所の十五周年記念パーティ。僕も招待されたんだけど、朝日奈さんに一緒に行ってほしいと思って』 「わ、私がですか?!」 な、なぜに私が。  だって私、関係なくないですか? 「いや……おひとりで行かれては?」  『招待券がね、二枚届いてるんだよ。なのに一人で行くのもどうかなって感じでしょ。それにこういうときは女性同伴でどうぞって意味じゃない? 男を誘って行ったりしたらがゲイじゃないかって邪推されちゃう』 とうとうと電話口で喋ったかと思うと、最後はそう言って笑い声を漏らす。  あなたがゲイに間違われようと知ったことではありません。  逆にあたふたしてるあなたを、見てみたいくらいですけども。 「別にもう……いいじゃないですか、ゲイデビューしても」  『バカなこと言わないでよ!!』 そういう業界にはゲイも多いらしいけれど。  彼はどうやら微塵も誤解されたくないらしい。「だったらほかの人を誘ってください。そちらの事務所のスタッフの方とか」 いつもデザイン事務所に赴くと、電話番を兼ねたような事務の女性もいるし。  たとえ事務所にいなくとも、ほかのスタ

  • 解けない恋の魔法   第四章 ドレスの魔法 第一話

    「緋雪! 今週の日曜日、空いてる?」 お昼休みに休憩スペースでコンビニの鮭おにぎりを頬張っていたら、麗子さんから声をかけられた。「今週、なにかあるんですか?」 「うん。友達と行こうとしてたライブがあるんだけど。その友達、行けなくなっちゃってね。チケットがもったいないから一緒に行こうよ!」 テンションの高い麗子さんを前に、眉尻を下げてペコリと頭を下げる。「すみません、今週はちょっと用事があるんですよ。本当は麗子さんとライブに行きたいんですけど……」 麗子さんと出かけるほうがどんなに良いか。  どんなに楽しくて、気が楽なことか。  聞けば、それは今人気のバンドのライブだった。  ストレス解消にはちょうどいいのだけど。「なんだぁ、緋雪もダメかぁ」 「ごめんなさい」 シュンと肩を落として謝ると、麗子さんがクイっと口の端を上げて意味ありげに微笑んだ。「何……緋雪、彼氏でもできたの?」 「いやいやいや、そんなわけないじゃないですか!」 手をブンブンと横に振りながら、あわてて真っ向否定すると、麗子さんはケラケラと綺麗な顔で笑う。  否定する自分が悲しいけれど。「また、誘ってください」 「うん、また今度。その代わり、男が出来たら絶対言いなさいよ?」 せっかく先輩が誘ってくれたのに、それを無下に断る後輩でごめんなさい。  それもこれも全部、気まぐれイタズラわがままっ子のせいなんです! ――― 時は、昨日の夜にさかのぼる。 私が仕事から帰ってきて、家でホッと一息ついたのもつかの間。  スマホに、宮田さんから着信があった。  どうしたのかと、自然と眉間にシワを刻みながらも静かに通話ボタンを押す。「もしもし」 『あ、もしもし。朝日奈さん?』 一週間ぶりに聞く、彼の声。 そう、あの日……  告白だのキスだのと、幻聴とか幻影に一気に襲われたあの日から、会ってもいないし電話もしていなかった。  デザインの進捗は気になっていたし、それは仕事として確認しなくてはいけなかったけれど。  あれがまったくの幻だったとは、やっぱり思えない。  どう考えてもあれは夢や幻じゃなくて現実だった。  それをただ認めたくなくて、私は幻だったと思いたいだけなのだ。 仕事をする上で、彼を無視するのもそろそろ限界だなと思っていた矢先。  おそるおそる電

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